1952年の夏だったか、油井正一さんの家に伺った時、「河野君から贈られたレコードだが…」と、そこで聴かされたのは黄色いラベルのSP盤だった。一回聴き終わって「なぁキミどう思う?このクラリネットは、昔むかし笛の名人藤原保昌が夜道を笛を吹きながら歩いている、その後ろから盗賊袴垂が襲いかかろうとしたら、笛の音に魅せられて襲いかかれなかったという話を知っているだろう。今聴いたクラリネットはジョージ・ルイスという、これまでとは違ったクラリネットと思わないかい?」と、とっさの話で…。「先生、その話は、笛の名人よりも盗賊を褒めたいですねぇ。盗賊を沢山増やしましょうよ」と。この時は話をはぐらかして申し訳ないと思って、早速に <日本楽器> へ行って <Burgundy Street Blues> の入った輸入盤をオーダーしたものだ。
前置きが長くなりました、この度は <ニューオリンズ・ラスカルズ> のリーダー河合良一さんの古希を祝ってジョージ・ルイスの伝記本が出版された。著者はドロシー・テイト(米国のコラムニストでジョージのマネージャーを勤めた人で故人)で、訳者は、ジョージのクラリネットに心底惚れ込みようの小中セツ子さん。
300頁に及ぶものだから 一気には読んでいないが、ジョージの誕生から世を去るまでの生涯。それに教会での葬儀に <古き十字架>が奏されるまで、事細かに描かれている。特にジョージのファンならば、本棚に並べるのではなくて、ジョージのSP、LP、CDと共に置いて、いつでも読めるように、そして魂に触れる音が聴かれるようにお薦めしたい。ジョージ・ルイスの音楽は永遠てす!
(機関誌 Hot Jazz Line No.50 2007年12月より転載)